をたくもすなるネカマといふものを....

 今から1000年以上前の平安時代土佐国国司の任期を終え家路に向かう紀某。疲れからか、自身を女性にかこつけて、日記を書いてしまう。そしてなんとこの日記、作者は知る由も無いだろうが、1000年以上経った今でも、全国の中高生に読まれているのである。ほんの遊び心で書いた恥ずかしい日記が数千年経っても晒されている事実をもし作者が知ったらどうなるだろうか?おそらく怨霊となって日本中の古典文学の研究者を手当たり次第祟り続けていくことだろう。

 さて、前置きはこの程度にして時は平成時代である。インターネットが普及し、匿名でコミュニケーションが出来るようになった現在では、自身の性別や年齢、経歴を幾らでも偽って人々と交流が可能となっている。勿論ボロを出して気が付かれることもあるが、上手くやれば、誰でも、東大医学部卒のイケメン外科医や、戦前は華族でTOEIC900点台のベガスで白人からナンパされた女子大生になれる訳だ。

 無論、上記は極端な例である。しかし、多かれ少なかれ、現代のネット民はアイコンを美少女にしてみたり、本名とは似ても似つかぬ名前で活動してみたりと自分を偽って活動していることは間違いはあるまい。そしてその中には自身の性別を偽ることで人気を獲得する人もいるのである。いわゆるネカマという存在だ。

 ネカマとはネットとオカマの合成語であり、男性でありながら、インターネット上で女性を名乗って活動する者たちのことを言う。ネカマの中には純粋に性自認が女性である男性も含まれるが、一般にこの語が使われる時は積極的に男性を騙して釣り上げたり、あるいは、女性として振舞い、チヤホヤされることで承認欲求を満たそうとする不純の輩を指すことが多い。

 そして、今日の本題はこの不純な輩に私がなった(なってしまった)時の話である。少し気持ち悪い内容になるので少し注意して読んでいただきたい。

  ある日、単純に暇すぎた私は、純粋に雑談をする目的でとあるチャットアプリをインストールした。そのアプリはライン風のチャット画面で適当な人を選んで雑談するというだけの単純なアプリであり、実際機能しているのかは疑問だが出会い系の目的で使用することを禁止する旨の注意や、通報機能等も存在した。出会い系ならともかく、そういうことならとインストールを決意し、初期設定をさっさと終わらせた。しかし、後に分かったことだが、ここで私は致命的なミスを犯していた。適当に入力した名前とアイコンからでは性別がぱっと見で判断出来なかったのである。開始数分で、数人からメッセージが届くも、全員が全員、私のことを女性だと思い、そのことを前提して話が進んだ。今更ながら否定すると何を言われるか分からない。そこで、私は遂にネカマを決め込むことにした。

 「彼氏いる?」「どこ住み?」「何歳?」「趣味は?」と言った質問に私は適当にその場で思いついたプロフィールの女の子になり切って返信した。噂に聞いた絵文字を多用してくるおっさんや、彼氏を作った方が良いと延々と諭してくるお兄さん、普通に雑談してくれたお姉さん、色々な人と話すことが出来た。怪しむかも野暮なのかもしれないが、一度も疑われることもなく、やり取りを行うことが出来た。

 そんなこんなで数時間、数人とチャットをした私は密かにネカマをする楽しさを感じ始めていた。ただ、そんな楽しさは結局一瞬で砕け散ってしまった。トークの続いていた一人から延々とセクハラ紛いの、しかも頭の悪さや童貞感丸出しの(自分が言えたものではないが)発言を繰り返されるようになり(もちろん、拒否しなかったのも悪いと思うが)、気持ち悪さから遂にスマホを置いてしまった。そして、そのまま寝てしまった。目が覚め、スマホを見ると、意訳すれば私を想像して自慰をした旨伝えるメッセージが届いていた。

 ツイッターにク○客のいる生活という風俗嬢の愚痴を書き込むハッシュタグが存在しているが、そのク○客さながらの男との戦いを終え、私は男という生き物がいかに気持ちが悪いものなのか痛すぎるほど理解したのと同時に、その剥き出しの性欲を向けられることのない安全地帯にいられることの幸福を感じた。しかし、一方で、同時に自分もあのおっさんの同類になり得る(あるいはもうなっている)事実に対しても恐怖を感じずにはいられなかったのである。

  ネカマとして、男という枠を一時的に脱して男と接した私は「男はキモかった」という結論に至った。ただ、何だろう。少し考えると、結局、一番気持ち悪いのは、そのキモい男のくせして、女性を名乗り不特定多数の人間と交流し、挙げ句の果てにはおっさんの自慰のオカズにされた「私」なのではないだろうか。しかし、それはあり得ない。何故なら私は17歳の女子高生だからである。何というか読んでくれてありがと! 実は私、朝起きるのが苦手なんだよね ってことで今日はもう寝ます!色々とありがとう!おやすみなさい!

文責.大学一年生のオタク